第4章「ファービー②」

※この章は、一つ前の章「ファービー①」を読んだあとに読むことを推奨いたします。


ジーーーーーーーーーーーーーーーーー(小劇場開演の音)


私は大学生になった。いつもの通り、大学へ向かう。その日はたまたまバスを使った。バスに乗るとファービーらしきフォルムがそこにあった。私は迷わず声をかけた。「ファービー……?」

「おお!!!Emily17じゃないかあ!やあやあ!ひっさしぶりだなあ!」やはりファービーだった。ファービーは相変わらず、その右手首には骨が入ってないみたいに、手の平を垂直にだらんとさせて、(横から見たら上下逆Lみたいな形)そのだらんとした手を、やる気もなく水を切るように左右に振った。これはファービーの技で、というか、自覚症状があるのかないのか、本能でやっていそうな仕草で、「やあやあ」という言葉とセットで繰り広げられる。ファービー=「やあやあ」or 「この仕草」的なところがある。久しぶりにファービーのやあやあが聞けて、あの仕草が見れて嬉しかったが、ファービーはなんと、わたしの知らない声になっていた。恐る恐る私は「え、ファービー声変わった…?声変わり、した…?」と聞いた。私の記憶は少し高いかわいらしい声のファービー、で止まっていたので、容姿はさほど変わっていなかったが故に、見えているものと聞こえてくるもののギャップで少し混乱した。けれど、変わっていたものはむしろ声だけで、その他はなにも変わっておらず、すぐにあの頃の感覚を思い出した。会うと早々に「いや~Emily17はすごく垢抜けたなぁ、もともと垢抜けてたけど、もっと垢抜けたなあ、すげぇなあ」なんて人のことはこれでもかってくらい褒め上げるのに、自分のことは相変わらず「僕はそんな大した人間じゃない」と否定した。そしてそのまま一緒に電車に乗った。電車に少し揺られると目の前の席がちょうど2つ空いたので、「お、ちょうど二つ空いたね、座ろう」と座ったところ、ファービーは座らない。人もそこまで多くはない車内で、見渡す限りのシニアの方々は座ってらしたので、不思議に思って、なぜ座らないのかと立っているファービーを見上げて聞いた。

「もしかしたら次の駅でお年寄りが乗ってくるかもしれないから。僕は初めから座らないんだ。まあ、その、登山するのに足腰鍛えないとだし…!譲るのも苦手だし…」

ファービー、、、、、。君はどこまでも、いつまでもファービーなんだな、、、。あー、ファービーだあ、、、と思った。その良心を照れ臭いと思っているのか、誤魔化すように後付けする様子も、その理由もすべてファービーだった。その後は彼の予想通り、私の隣には人が座ったが、それがシニアの方だったかはあまり覚えていない。けど、ファービーにとってそこは重要ではないのだろう。会っていなかった数年間なにをしていたのか、中学の同級生はみんな元気にやってるのか、その手に持っているプリントはなんの授業のものなのか、などたくさん話した。

そんな素敵な朝を迎えた私はファービーと駅で別れると、時折、先程の出来事を思い出してはニヤけ、大学へ向かった。幼稚園から中学まで一緒の友とついさっきまで話していたのに、今は一人で大学に向かっている、というその事実に感動しつつ、時の流れを感じた。


さて、「ファービー伝説」はこれにてひとまず閉幕である。また、この出来事があった日から軽く半年以上は経っているので、所々違う箇所があるかもしれない。けど、少なからず私の記憶ではこんなお話しである。ファービー伝説、諸説あり。そして、ファービー、もし人伝てにこのDIARYの存在を知っても、どうか成人式で「おい~また僕のこと書いたのか~僕はそんな大した人間じゃないさ~」なんて言わないでおくれ。ファービーは大した人間だし、私はこれらを書かずにはいられなかったのさ。わかるだろう。諸説あったらレッミッノー。